旅の記録 − 生のかたちへの24の随想

解説&旅日記
https://note.com/nujawakisi1003/n/n3e6705335b21

この曲集は2024年8月22日から8月29日までの新婚旅行中に着想し、翌年1月14日に完成した。

「アール・ブリュットをめぐる旅」というコンセプトで、8日間ベルギー、フランス、スイスを横断したこの弾丸旅行は、沢山の感銘と学びを覚え、ふと、リストの「巡礼の年」のような旅行記の音楽を作りたい、と考え、誰のためでもなく自分のための作曲として書き記すに至った。

アール・ブリュットとは「生の芸術」の意味であり、正規の美術教育を受けていない者による芸術作品のことである。福祉活動の一環として、精神障害者や知的障害者の作品が取り上げられることも多く、そちらが有名かもしれない。なんにせよ、アカデミックな文脈に依らないプリミティブな「生」の芸術−賛否両論はあるだろうが−に大いに唆られたし、自分自身について再考する機会ともなった。

アール・ブリュットの美術館は「Dr.ギスラン博物館」「リール・ヴィルヌーヴ=ダスク・アウトサイダーアート近現代美術館」「ローザンヌ・アール・ブリュット・コレクション」に向かった。本来は行きたい美術館が他に2つあったのだが、そちらは当日や直前になってバカンスや工事などで中止が判明したため、様々な大聖堂やルーブル美術館などの観光名所を巡ったりもした。そして、スイスいくなら山を登りたいということで、グリンデルワルトにも向かい、雄大な山と美しいバッハアルプ湖を訪れた。

歴史の主流から少し離れたアール・ブリュットと、歴史と密着なルーブル美術館と建造物、そしてそもそも人の手に及ばないアルプスの山々。ジャンルは違えど様々な「生」とかたちを見聞きし、その経験を24曲に込めて作曲した。

24曲ということで全て違う調で作曲されるこの曲集は、バッハから始まりショパンやラフマニノフやショスタコーヴィチが行った前奏曲集のような趣も見せる。様々な音の姿を通してこの旅を追体験できたならば幸いである。