Aetherは、奥田ナオト展のテーマでもあります「五方陣」「透明な光」を汲んで、宮沢賢治の「生徒諸君に寄せる」を用いて朗読とダンスと音楽でコラボレーションしたものです。
作品自体は皆でアイデアを出しながら作りましたが、わたくしは作曲家の視点で構成面を設計し演出も行いました。
構成は15部からなり、4人のアーティストたちが次の順番で人数や相手を変えながらローテーションでコラボレーションしていきます。
4人x1回
3人x4回のローテーション
2人x4回のローテーション
1人x4回のローテーション
4人x2回
舞台でもある奥田ナオトの作品の秘教的な雰囲気をモチーフに、魔法陣のようなイメージで構成しました。
さて宮沢賢治は科学・テクノロジーへの興味を示し人間のたましいを電気信号に例えるような視点を持ちつつも、自然への讃歌を常に絶やさないソフトSF的な感性が感じられます。
また戦争の時代でもあり抑圧への抵抗と自由への夢想がこの「生徒諸君に寄せる」には強く感じられます。
こうした独特な憂鬱さからテクノロジーとたましい、社会と個人の自由のはざまに悩む現代日本に響くものが宮沢賢治の詩には未だにありましょう。
現代のAIは、ある捉え方で見れば、人間のある識別・行動パターンつまり魂の一部をコンピューターに移して半永久的に繰り返すものとも言えます。
この作品に使われるAIは非常にシンプルかつ一部にしか使用されませんが、私の好むパターンを繰り返したいわば魂の一部です。
その魂の一部たる“私”は、即興演奏を行う私自身との分離を始めます。
このようにこの作品の音楽は、異なるジャンルとのコラボレーションという形でも魂を分け、そして音楽自身も魂を分離し、音楽そのものがもともともつ、時間を操作する抑圧の力がスポイルされます。
音楽自身は何によって支配されてるかというとそれは“無音”だと思います。無への思いが私がこの作品にこめた一つのテーマです。
無があって音がある。つまりそれが、透明な光であり、五方陣の一つとして朗読とダンスなどの異なる分野、そして聞きに来る皆様との思索的なコラボレーションを試みるのであります。